大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和33年(ラ)92号 決定 1958年10月15日

抗告人 池内貞右衛門

主文

原決定を取消す。

本件競落を許さない。

理由

抗告人の抗告理由の要旨は、本件競売手続において目的不動産はいずれも賃貸借がないものとして競売がなされたが目的不動産中宗像郡津屋崎町天神町二、四九一番地の一三宅地三一坪の内一六坪と同所七八五番地の二宅地一一坪とは昭和三〇年一〇月八日原田某がこれを地代月額五四〇円、保証金(敷金)五万円の約定で期間の定めなく賃借し同年一二月中旬に右賃借人は自己所有の家屋を建築して現に使用中である。そこで本件競売は民訴六五八条三号に違背し結局同法六七二条四号に該当する違法あるものであるから本件抗告に及ぶ、というのである。

よつて案ずるに、不動産の任意競売において競売期日の公告に記載することを要する賃貸借は抵当権者、従つてまた競落人に対抗することを得る賃貸借に限られるところ、抗告人主張の賃貸借は本件抵当権設定登記の日である昭和三〇年二月一四日(そのことは記録編綴の登記簿謄本により明らかである)の後になされたものであるから、抵当権者に対抗し得るためには民法六〇二条所定の短期賃貸借であり、且つ地上建物につき賃借人の所有名義に登記がなされていることを要するのである(土地賃貸借の登記がないことは前記登記簿謄本により明らかである)。しかるに本件においては右対抗要件を具えた賃貸借であることを認むべき何らの証拠もないから、これを競売期日公告に記載しなかつたからといつて本件競売を違法となすことはできない。抗告人の主張は採用し難い。

しかしながら、職権をもつて案ずるに、記録編綴の根抵当権設定証書相互掛金債務弁済証書(三通)竝に目的不動産の各登記簿謄本によれば、本件根抵当権の被担保債務は不動産所有者たる桑原寛砥の債務のみではなく、同大竝に長瀬又男、長瀬歌子が連帯債務者として負担すべき各債務に及ぶのであり、且つ本件競売申立の基本債権である三口の相互掛金債権についてはいずれも右三名が連帯債務者となつていることを認めることができる。そこで右三名はいずれも競売法二七条所定の債務者として競売手続の利害関係人となるのであるから、競売期日の通知は右三名に対しそれぞれなされるべきであるにも拘らず、記録に徴すれば本件においては桑原寛砥のみを債務者とし、他の二名の連帯債務者はこれを利害関係人となさず、ために右二名に対しては前後四回に亘る競売期日をいずれも通知しなかつたことを認めることができる。そして第一回から第三回に至る競売期日にはいずれも競買申出人がなかつたため、当初の最低競売価額金九一八、二五〇円を順次低減し、第四回競売期日においては最低価額を金六六九、五〇〇円と定めて競売期日公告をし、該期日に右価額をもつて競買がなされ、これに対し本件競落許可決定がなされたことが認められるのである。しかしながら第一回乃至第三回の競売期日は前記のように利害関係人に対する通知を欠ぐため適法に開かれなかつたものであるから、各期日に競買申出人がなかつたからといつて直ちに最低価額を低減することは許されないところである。従つて第四回競売期日において前記低減した最低価額を定めて公告したこと並に該価額をもつて競買したことはいずれも違法であるといわなければならない。さすれば本件は結局において民訴六七二条三号並に四号に該当する違法あるものであるから、本件競落はこれを許すべきでない。

よつて原決定を取消すべきものとし主文のとおり決定する。

(裁判官 竹下利之右衛門 小西信三 岩永金次郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例